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コラム
2005年12月
百害あって一利なし
 先日、函館に行った折聞いた話だが、北海道は禁煙率が低い。都内では、公共の施設はもちろん、社内禁煙の企業がほとんどだが、函館はまだ禁煙が徹底されていないそうだ。理由を訊くと「北海道は人口密度が低く、人が大勢集まる場所や機会が少ないから」との答え。つまりタバコを吸っても他人に迷惑をかけないからで、禁煙率は人口密度と比例する。
 
 寄席の楽屋はいまのところ、禁煙ではない。タバコ好きな出演者が多いと、着物にタバコの臭いがついてしまうこともある。
 亡くなった小さん師匠は煙を嫌がり、そのことを皆知っていたので、師匠が楽屋入りすると一斉にタバコをもみ消し、帰った途端スパスパと吸い始めたものだ。

 ただ、小さん師匠は相撲好きで、大相撲の場所中はよく楽屋に残り、TVを観ていた。仕方なく皆タバコを持ってトイレに入る。還暦を過ぎた師匠連も人間国宝の前では高校生並みだった。

 噺家はのどが大事な商売なので、私も何度も禁煙を試みたが、いまだに止められない。愛煙家の歌丸師匠は「私は意志が強いから、永年の習慣は絶対に止めません」と云っていたが。

 タバコが値上がりして、一箱1万円になれば私は止めるだろう。来年こそは・・・
2005年10月
質疑応答
 落語会の最後に<質問コ−ナ−>と称して、お客さまからの質問や感想などに答えることがある。最も多いのが「なぜ落語家のなったのですか?」という質問で、「落語が好きだから」としか答えようがない。私の場合、親がこの世界に居たわけでもないし、スカウトされたわけでもない。ほとんどの落語家が同じように答えるだろう。(スカウトされてこの世界に入った人は、私の知る限りいない)
 
他には「人前で喋るのは緊張しませんか?」「むしろ高座に上がる前の方が」。「どうやって噺を覚えるのですか?」「歩きながらブツブツ喋ったり、ノ−トにセリフを書いたり」。「セリフを忘れたことは?」「もちろんありますが、ごまかして先へ進みます」等。大人からの質問はなんとか答える。

 厄介なのは子供の方で「なぜ座って喋るのですか?」には困った。この質問は想定の範囲外。「う〜ん、立ちっぱなしだと疲れるので…」と答えるのがやっと。後で考えると、落語という芸を根底から覆す良い質問で、座布団に正座しなくても落語は出来るし、事実小噺なら立って演じたこともある。

 某落語家が『長屋の花見』で「このお茶は100グラムいくらですか」と演った。終演後「グラムは英語だから、おかしいと思います」と子供に直されてしまった。「なんだよ、客席に子供が多いから判りやすくしたの」と悔しがっていたが、子供こそあなどってはいけない。
2005年8月
こだわり、それともわがまま?
 旅先でホテルや旅館にチェックインすると、フロント係から「明日の朝食は和、洋どちらになさいますか?」と訊かれる。迷わず「和食!」と答える。普段は朝から食欲はあまりないが、旅先では最低二膳はたいらげる。日本旅館なら格別で、3,4日間の地方公演だと太って帰るほどだ。

 ただ近頃残念なことに、生玉子が出ない。地玉子なら一膳は玉子かけごはんで食べたいのだが。衛生上の問題だろうが、玉子焼きにはうんざりする。それから焼き海苔がなく、なぜか味付け海苔だ。私はあのベタベタが苦手で、パリッとした焼き海苔に下地をちょいとつけて、炊きたてのご飯に巻くのが嗜好なのだが・・・醤油を使わず、皿もひとつ洗わずに済むという訳ではなかろうが、ホテル業界の方、ご検討願いたい。

 ついでにもうひとつ、なぜ酢豚にパイナップルを入れるのか?
あれを美味しそうに食べている人を、見たことがない。隠し味につかうなら、取り除いていただきたい。サクランボならまだ許せるのだが。
2005年6月
アクシデント
 先日、高座中に地震があった。私は元来鈍感な方で、お客さんが気づいて騒ぎ始めた。後で知ったが、震度3で大きな揺れだったようだ。まだ本題に入る前のマクラだったのが幸いして、高座を続けることが出来たが、噺の筋に入っていたらどうなったか…。

 地震ばかりでなくアクシデントによって高座を中断され、なぞかけ等の余興でお茶を濁した噺家を何人も見ている。酔っ払いの大声、鼾、急病人から携帯電話の着メロ等。落語はガラス細工のような弱い芸能で、アクシデントには脆いものなのです。

 もう7年ほど前になるが、名古屋の大須演芸場で古今亭志ん朝独演会。志ん朝師匠が高座に上がって5分ほど喋ったところで、突然舞台袖から白い煙がモクモクモク・・・。舞台係が誤って消火器を倒してしまった。お客さんも驚いただろうが、一番驚いたのは高座の志ん朝師匠。噺を中断して、窓を開けさせ煙を出すこと10分。その間なんとかその場をつないだ。

 不幸中の幸いはまだマクラの間だったことと、演目を決めていて、なんと『火事息子』。出来すぎとおっしゃるかも知れないが、本当の話。私は袖から一部始終見ていたんですから。
2005年4月
交通安全落語
 昨年の9月に板橋区役所の交通対策課から、自転車の安全運転を啓蒙する落語を『交通安全大会』で演じてほしいという依頼があった。もちろんそんな噺はあるはずもなく創作したのだが、当日は新聞社3社の取材があり各紙に写真入で記事が載り、板橋区からは『区民文化特別賞』をいただいた。

 そんな宣伝効果があり、2つの警察署から『交通安全キャンペ−ン』に呼んでもらった。当初は区の花が「二輪草」(自転車にはもってこい)なので、それ
をつかったオチを創ったが、オチも全国版に改めた。2月に八代市の小学校でも演ったが、おかげさまで好評だった。なにが仕事に結びつくかわからない。

 ただ、気をつけなければならないのは、私も交通ル−ルを守ることだ。違反でもして捕まったら、とんだ笑い種だ。自転車も安全に乗っています。どちらでも馳せ参じますので、『交通安全落語』をどうぞよろしく!
2005年2月
NHKにエール
 正月4日から7日まで、NHKの『お昼ですよ!ふれあいホ−ル』という番組に出演した。5人の落語家が大喜利で座布団を取り合い、最も枚数の多い者が福袋をもらえる企画(どうしても『笑点』に似てしまいます)。すべて干支の酉に関する問題で、生放送ということもあり、答えが同じにならぬよう5人で知恵を絞った。

 いよいよ最終日の最終問題。いい答えには座布団10枚!・・・「今まではなんだったのか?」と云いたくなる(笑)。結局、玉の輔さんが福袋を獲得したのだが、中身は『NHKの番組出演許可・・・ただし、時期未定』とオチがつく。この中身を見せるについては本番開始の直前まで、ひと悶着あった。「出演許可とは傲慢ではないか」という意見と「バラエティ−番組だから、そこまで考えなくても」という意見。時期が時期だけに、制作サイドが視聴者のNHKに対するイメ−ジに過敏になるのは仕方がないが、『出演許可』を『出演依頼』とすれば、問題はなかったと思う。議論の末『出演許可』の中身を見せたが、私の知人から「あれは傲慢だ。出演許可では未定という洒落にならない」というメ−ルが届いた。

 NHKは落語を放送する番組もあり、民放より落語家を起用している番組も多い。「体質改善をすべき」という意見を聞くが、番組に出演した私としては複雑な思いだ。新会長就任で不正をなくし、良い番組を制作してもらうことを切に願う。
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